奇をてらわない、見た感じから食べたときの味が想像できる、そんなスイーツをこれからもずっと、自分のペースで/「パティスリー ル シャトー」東京・東大和市/オーナーパティシエ 佐藤 正城
大好きなシェフの大好きな味に会いに行く、旅するように自由気ままに。その名も「シェフジャーニー」。西武拝島線東大和市駅から徒歩10分、郊外の静かで落ち着いた商店街を歩いていると見えてくる、街のケーキ屋さん「パティスリー ル シャトー」。都心から少し離れた場所であるにもかかわらず、爆発的な人気で売れ続けるカヌレはじめ、定番のショートケーキやチーズケーキ、マカロン、オペラなど、馴染み深くて温かみのあるスイーツが人気のお店。パリをはじめ、数多くの有名パティスリーを経験してきた佐藤シェフが築き上げた自分の城である、文字通りル シャトーに訪問させていただきました。(※佐藤シェフ、以下「佐藤」で表記)
子供の頃の記憶を思い出すパティスリー
― パティスリー ル シャトーを見ていると、自分が子どもの頃近所にあった大好きなケーキ屋さんを思い出します。
佐藤:えー、なんでですか?
― あたたかさとか、やさしさとか、ほっとする感じとか、そういったものが滲み出ている気がして。「パティスリー・ル シャトー」を開いてもうどのくらい経ちますか?
佐藤:今年の9月で丸3年になります。
― いつの間にかそんなに経つのですね。まだお店をオープンされる前、独立されると決められた時にお会いしたときのこと思い出します。その時に「どんなお店ですか?」とお聞きしたんです。そうしたら、「奇をてらわない、見た感じから、どんな味か想像できる、そんなケーキを作り続けるお店をやりたい」と答えられて。
佐藤:なんとなく覚えています(笑)。
― その言葉がとても新鮮に感じたのを覚えています。
佐藤:え?そうですか?なんで。
― わたしもそれほど佐藤さんのことをよく知っているわけではないですが(笑)、でも何となく佐藤シェフらしいなと思って。パリやいろいろなお店で修業されたり、さまざまな刺激を受けてこられたシェフが作る「奇をてらわないお菓子」って、一周回ってじわっと凄そうって思って(笑)。
佐藤:笑。そうですね。何層も味が重ねられていたり、複雑な構成だったりするお菓子ももちろんいいとは思うのですが、自分はそういうのがあまり好みではなかった。好みの問題ですよね。
もともと料理好きだった少年時代
― パティシエを目指そうと思ったのはいつ頃からですか?
佐藤:僕はそもそも、製菓専門学校って行っていないんですよ。
― そうなんですか??!
佐藤:普通の4年生大学、経営学科を卒業しています。
― 意外ですね!ちょっとそのあたりもう少し詳しく聞かせてください。どのあたりから「自分はパティシエになるぞ」と思い始めたんですか?
佐藤:あまり明確ではないんですけど、もともと中学生ぐらいから料理、おなかがすいたときにチャーハンを作ったり、そういうことが好きで、料理好きだったのからお菓子作りに興味がシフトしていった感じで。
<少年時代はお菓子よりも料理に興味があった>
― わたしにも高校生の息子がいますが、「チャーハン作りてえ」って自ら言ってくれる日を待っています(笑)。
佐藤:まあ、あまりはっきりした理由というのはないかもしれないのですが、子どもの頃、兄弟が多かったからか、誕生日ケーキはいつも母親が作ってくれていた。特別凝ったものとかそうではないのですが、とにかく手作りで。その姿をよく覚えています。
―え?!誕生日ケーキって、どこから手作りですか?
佐藤:スポンジからです。
― お母さんすごい!それ十分凝っています。私と比べたら(笑)。
佐藤:そういう風に、母親が料理やケーキを手作りしているのを見てきた影響もあるのかなと思っています。
大学在学中、パリへ ひょんなことから現地のパティスリーでバイト
― この流れでパティシエになっていく過程をお伺いしたいと思います。4年制大学の経営学科に通われて、そこからどのようにパティシエの道に進まれていったのですか?
佐藤:大学4年生のとき、フランス・パリに語学留学をしたんです。目的は語学留学だったのですが、そのとき、受入れ先の先生の伝手で、現地でパティスリーを経営している日本人のパティシエの方と知り合いました。フレデリック・千葉さんという方で、パリ9区のマドレーヌ寺院の近く、ヴィニョン通りに、「アンジェリック・チバ」というパティスリーを開いていて、そこで夏休み1ヶ月、冬休み2週間、そのくらいの期間を働かせてもらったんです。
― すごい流れですね。
佐藤:それから日本に戻って大学を卒業して、その後、錦糸町の老舗洋菓子店「ラ・バンボッシュ」、上野の「ロワゾ―・ド・リヨン」を経て、今度は語学留学を目的ではなく、パティシエとしての修業を目的に、再び千葉さんのお店で働かせてもらったんです。
「もう修業したんだからいいじゃん」ありがたかった師匠の一言
― 大学出てすぐにパティシエとして就職したとき、迷いとかそういうのはありましたか?
佐藤:僕自身も「製菓学校で学んだほうがいいのかな?」と思ったんですが、その時フランスで修業していた時代の師匠から言われたのが、「もう修業したんだから、ここからわざわざ製菓学校で学ぶ必要はないんじゃない?」という言葉で。
― そんなこと言ってくれる大人って、素敵ですね。
佐藤:そう。その言葉に元気づけられたというか、「え?その人がそう言ってくれるんだからいいか」みたいな(笑)。彼自身も製菓学校には通っていなかったそうで。いわゆる専門学校で学ばずに、いきなり単身パリで修行して、パリで自分の店を持ってっていう。
― かっこいい!
佐藤:はい。パリで店を持ち続けている人の言葉だからとても説得力を感じました。
― プロセスより結果、ということですね。そのあとはどうだったんですか?
佐藤:その後上野のパティスリー「ロワゾ―・ド・リヨン」を経て、、、、29歳くらいの時に店を辞めて、仕事としてワーキングホリデーのビザを取ってパリに留学しました。そのとき、一番最初に渡仏したときお世話になったパティシエのお店で再びスタッフとして4ヶ月程度働いて。
あるインスタグラマーのつぶやきから、、、、予期せぬ大ブレイク
―そうだそうだ、パティスリー ルシャトーと言えば「カヌレ」の爆発的人気ですよ。
佐藤:そうですね。まあ、自分としてはあまり変わらないのですが。
―どういう経緯でブレイクしたんですか?
佐藤:去年、2021年の3月くらいに、インフルエンサーの「ぐるてんぐるめ」さん(@gourten_gourmet)がうちのカヌレを「美味しい」と投稿してくれたのがきっかけです。
<すぐに完売になる大人気のカヌレ(公式インスタグラムより)>
― インフルエンサーの方からだったのですね。
佐藤:でも、全然、自分たちは最初知らなかったんですよ。うちのお客さん経由でぐるてんぐるめさんのところにうちのカヌレが届いて、「すごく美味しい!」と投稿してくれた、そうしたら思いもよらぬ展開になっていった。すぐに売り切れてしまうし、告知しても予約もすぐ埋まってしまうそんな現象が今もずっと続いています。予約はあっという間に埋まってしまいますね。
― インスタもただただ淡々と事実を投稿している、そういうところもなんかいい感じ!って思いながらいつも見ています。
佐藤:お店の情報なので、なるべくそういう風に投稿しています。
― そういう無骨なところが高倉健みたいでかっこいいです。
佐藤:笑。昭和ですね。
―!!!(恥)
夢、とかあんまり構えるほうじゃなくって・・・
―最後に、次はこうしていきたいとか、夢?ってありますか?
佐藤:夢というか「現実」として、カフェっていうか、自分のお菓子をイートインできる店をいつかできたらとは思っています。
―それ、わたしにとって夢!パティスリー ルシャトーの苺ショートをパティスリー ルシャトーのカフェで。最高です。
佐藤:笑。でも、あまり大それたことは思っていないです。
― だからこそいい!って思います。でも、そうはおっしゃっていらっしゃいますが、結果的には常に自分のなりたい方向に進んでいかれている気がします。
佐藤:人の出会いに恵まれているというか、つながっていくというか。
― 夢を手にする道につながる人に出会い続けているところも、佐藤さんのそのがつがつしていなさが自然と引き寄せているような気がします。
佐藤:気負わず、力が入り過ぎず、美味しいと思うお菓子を作り続けていけたらいい、そう思っています。
聞き手:鬼ヶ島 蘭々(ライター)
photo by 清水てとらす @tetolath
<プロフィール>
佐藤 正城(さとう まさしろ)
1985年、東京都生まれ。
もともと料理好きだった高校生時代から漠然と「パティシエになる」と夢を抱き始める。
大学在学中フランス・パリで語学留学の傍ら、現地で活躍する日本人パティシエ フレデリック・千葉氏の店「アンジェリック・チバ」で修業、卒業後、本格的にパティシエの道に。錦糸町「ラ・バンボッシュ」、上野「ロワゾ―・ド・リヨン」、麻布台「メゾンランドゥメンヌ」を経て、2019年9月「パティスリー ル シャトー」をオープン。
<店舗情報>
「パティスリー ル シャトー」@patisserie.le.chateau
定休日/月曜+不定休
営業時間:11時~19時
(日曜)10時~18時 ケーキがなくなり次第閉店。
〒207-0014 東京都東大和市南街2丁目109−5 コーポM2
TEL 042ー808ー8242
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